いかにして問題を設定するか

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ハーバードビジネスレビューの2018年2月号の特集は「課題設定の力」だ。

興味のあるテーマだったので、買って読んでみた。

なかでも、コンサルタントのトーマス・ウェデル=ウェデルスボルグによる論文「そもそも解決すべきは本当にその問題なのか」では、より正しく問題を設定するための方法論について論じられており、とても参考になった。

なので今回は、思考の整理として、この論文の内容についてまとめよう。

 

問題解決より問題設定が難しい

まず、筆者によると、企業幹部に行った調査で、企業が苦労しているのは問題解決ではなく、問題設定であることがわかったという。

そして、管理職たちは「行動を重視するあまり、問題を本当に理解しているか確かめることなく、解決策を即座に探そうとしがち」であると、筆者は指摘する。

 

「正しく問題を設定する」とは

では、「問題を本当に理解する」、あるいは「正しく問題を設定する」というのはどういうことなのか。

筆者は、エレベーターの例をあげて次のように説明している。

 

なかなか来ないエレベーター

次のような状況を想像してみよう。

あなたはオフィスビルの所有者で、テナントらがエレベーターについて苦情を訴えている。古くてのろく、待ち時間が長いというのだ。問題が解決されなければ中途解約して出て行くと、脅かすテナントも何件か現れた。

どうすべきかと尋ねられると、ほとんどの人は即座にいくつかの解決策を出す。

エレベーターを取り替える。強力なモーターに交換する、あるいは、エレベーターを動かすアルゴリズムをアップグレードしたらよいかもしれない、といった具合だ。

これらの提案は、筆者がソリューションスペースと名付けたものに大別される。

すなわち、問題は何かに関する共通の前提に基づいた、解決策の集合体である。この場合の問題は、エレベーターがなかなか来ない、ということだ。(中略)

ところが、ビルの管理会社に問題を説明したところ、もっと鮮やかな解決策を示された。「エレベーターの横に鏡を取り付けなさい」と。

この簡単な方法は、苦情を減らすのに極めて有効であることがわかった。なぜなら人間は、思わず見入るようなものが与えられると、時が経つのを忘れがちだからだ。この場合は、自分たち自身に見入るのである。

鏡というソリューションは、実に興味深い。

これは、テナントから苦情として訴えられた問題の解決策ではないからだ。鏡を置いてもエレベーターは速くならない。その代わりに指し示しているのは、問題の理解を変えなさいということである。

当初の問題の枠組みが、必ずしも間違っていたわけではない点には留意してほしい。

新しいエレベーターを設置すれば、おそらく物事はうまくいくだろう。リフレーミングの重要なポイントは、「真の問題」を見出すことではない。解決すべきよりよい問題がないか探ることなのだ。

実際のところ、根本原因はただ1つという考え方自体、誤解を招くおそれがある。通常、問題とは多層の原因から生じたものであり、さまざまなやり方で対処可能である。

このエレベーターの事例では、需要がピークに達した時の問題ーエレベーターを同時に必要とする人が多すぎる場合の問題ーとしてリフレーミングすれば、需要を分散させることを軸にした解決策が導き出されるかもしれない。たとえば、昼食の休憩時間をずらすといった方法である。

問題を別の側面からとらえると、抜本的な改善がもたらされることがある。数十年にわたって解決困難とされてきた問題に対して、解決策を導くきっかけができるかもしれない。

 

正しく問題を設定するための7つの方法

ではどのようにすれば、正しく問題を設定することができるのか。

筆者は、この問いに答えるべく、「問題のリフレーミングの手法」として以下の7つを提案している。

 

1. 正統性を示す

まず最初に問題のリフレーミングの正統性について、チームの他のメンバー納得してもらおう。

たとえば、先ほどのエレベーターを話をしてみよう。

 

2. 第三者を話し合いに同席させる

当事者は、視野が狭くなっているために問題設定よりも解決策に注意を向けがちだ。その点で第三者は、当事者を刺激して、異なる角度から問題を考えるきっかけをくれる。

思いのままに語ってくれそうな第三者に、チームの考え方に疑問を投げかける役割を頼もう。

 

3. 問題の定義を書き出させる

それぞれのメンバーに、解決すべき問題はなにかを1、2文で書きだして説明してもらおう。そして、その説明の文言に細心の注意を払おう。

 

4. 何が抜け落ちているかを尋ねる

書きだしてもらった問題の定義を見るときに、そこになにが書かれているのかを掘り下げるのと同時に、なにが書かれなかったのかを見よう。

 

5. 複数のカテゴリーを検討する

自分たちの考えている問題はどのカテゴリーに属しているのかを、明らかにしよう。 

 

6. よい意味での例外を分析する

問題の枠組みを見直すために、問題が起こらなかったケースに着目しよう。その状況はなにが違っていたために、問題が起こらなかったのかを考えてみよう。 

 

7. 目的を問い直す

ある行動をすべきかどうかを議論しているとき、その目的を明らかにしよう。実は、それぞれの考える目的が異なることがあり、それに気づくことが新たな解決策をもたらしうる。

この点について、筆者は下の例を紹介している。

 

「窓を開けるか閉めるかどうか」について言い争うふたり

二人の目的は根底の部分で異なっていたと判明した。

一人は新鮮な空気を吸いたいが、もう一人は冷たい空気が入り込むのを避けたい。

第三者からの質問によって、こうした隠れた目的が明らかになるまで、問題は解決されなかったのだ。

その解決方法は、隣の部屋の窓を開けることだった。

 

この論文、よければぜひ原文でも読んでみてほしい。

 

参考文献

トーマス・ウェデル=ウェデルスボルグ「そもそも解決すべきは本当にその問題なのか」ハーバードビジネスレビュー 2018年2月号